年越し@ヴァラナシ

現地の友達と年越しをしようかと思ってたのだけども
シタールの先生が、インド古典音楽の年越し演奏会があることを
教えてくれたので、それに行くことに。
夜9時から始まって、元旦の明け方まであるらしい。


泊まっていた部屋がやけに高かったので、朝チェックアウトして
シタールの先生の部屋に荷物とシタールを置かせてもらうことにした。


昼間に演奏会のチケットを手に入れ、夜9時ちょっと過ぎて会場に入ると、
すでに狭い会場は満席、演奏が始まっていてびっくりした。インドで定時に始まるとは。
満席と言っても席が並んでいるわけではなく、大きな座布団のような
日本の敷布団のようなのがびっしり敷き詰められた純インド式会場。
観客はそこで胡坐をかくなり、横座りするなり、眠くなったらそのまま寝るなり、
お好きなようにどうぞ、ということだった。
客は意外にも8割くらいが外国人観光客が占めていた。


演奏はシタールからスタートしていた。演奏者は著名らしい若い演奏家だった。
演奏は良かったけど、模範演奏みたいな感じで味がなく感じられ
私はあまり好きではなかった。


その次は、サーランギーというバイオリンのシーラカンスみたいなのと、
ハルモニウムというインドの空気オルガンとタブラの演奏による女性の声楽だった。
女性の声楽家は若くてまだ学生みたいな人で、緊張もあいまってか声があまり出ていなくて
しかもカンペを見ながら歌っていた。プロではないようだった。
それよりも、サーランギーを生で見るのは初めてなので、かなり興奮した。
音も味わい深くて面白い。
下の写真がサーランギーとその演奏家


その後に夜の軽い食事が出た。こういうところがインドらしい。
座っていると、給仕の男の子らがプレートを配って、それに他の男の子が
インドのファーストフード的なスナックなんかを配って歩いた。
スイーツも出て、どれもなかなか味が良かった。


お茶を飲み終わった頃、いよいよ演奏会が再開され、サントゥールという楽器が登場した。

楽器屋で見かけたことはあったけど、プロの演奏を聴くのは初めてだった。
この音色が、間違いなく会場の全員が聞き惚れていると実感したぐらい魅力的だった。
世の中にこんなに美しい音がシタールの他にもあったのかと私は心を奪われた。
崇高美を感じさせる曲だった。
演奏家の技術も素晴らしかった。合間合間で音が止んだ瞬間、
会場はしんと静まり返り、みんなが熱心に耳を傾けているのがわかった。
音色は会場の空気を欲しいままに支配し、みんなの心も魔力のように支配した。
永遠のような音色だった。


このくらいに年が明けた。
そして引き続いて、サロードという弦楽器の演奏が始まった。

これはギターのような感じだけど、もっと金属っぽいハードボイルドな音がする。
渋くて味がある。
演奏家も渋くてとても雰囲気のある人だった。
熟練したアーティストの演奏は安心して聴ける。


その次はインド式スライドギターとシタールのアンサンブル。
インド式スライドギターがとてもシタールの音色に似ていて驚いた。


その後、またサントゥールサロードが登場し、
司会者がそれぞれその場で「じゃあと1時間半演奏して」とかそんな感じで
演奏家たちは何でもないことのように直ちに演奏を始めるんであった。
いかにもインド的に適当かつ穏便にすべてが運ばれ、
途中で美味しいハーブティーみたいなのが出されたりして、
そうして朝4時までその温かみのある贅沢な演奏会は続いた。


多くの人は深夜0時を過ぎた頃からそれぞれの宿に帰って行き、
残った観客は壁にもたれかかったり、足を伸ばしたり好きな姿勢で聞き入っていた。
演奏を聴きながら寝入る人もいたけど、いくら寝てもいいと言われていても、
私はさすがに演奏家の前で眠ることは恐れ多くてできなかった。
できたらまた来年も来たい。