再びインドへ

地面や建物、空港周りに点在する雑木林に
自分の乗っているジェットの影が映っているのが見える。
予定より30分遅れの離陸、私は再びインドに向かっている。

昨日予定通り手元にビザ付きのパスポートが届き、
入社日が迫っていたため
今日早速インドに発つスケジュールになった。
脱皮した成虫が、
脱いだサナギの殻を置いてどこかに飛び立ってしまうように
私は久々の実家で過ごした日々を
カバンに詰めずに置いたまま飛び立った。

インドに向かう飛行機の中でいつも私が考えるのは
これから始まる自分のライフスタイルだった。
自分のライフスタイルのことを考えるとき
「思想が実践になるか、実践が思想になるか」
という疑問がいつも頭を過ぎるけど、まだ答えは出ていない。
ヒントは、自分がどれだけ自分に正直かということだけ。


私は自分のライフスタイルに関して
全体像はアバウトな割りに、
短期のヴィジョン(せいぜい1、2年)を思い描くのが
どうも好きらしく、目の前でこれから始まることに関しては
どうでもいいかなり細かいところまで考える癖がある。
自分の思っていることがどんどん形になって日々が過ぎていく、
そんな場所が私にとっては母国ではなくインドだった。
自分の思っていること、
それはつまり、日々を美しく生きること。
日々を美しく生きるというのは、
今日できることを今日するということ。
心身ともに健康的であるということ。


5年前、2度目のインド旅行から帰って来たとき、
いつかインドに住もうと思うと知人に話したところ、
住みたいのなら、インドに必要とされるようになるといい、
とアドバイスを受けた。
それを聞いたときから
その言葉は私の奥深いところで宝石のように煌き続けた。
インドに必要とされる、というのはいかにも抽象的なようだけど、
インドに住むためのメソッドとしては
ある意味極めて具体的だったので
私は途方に暮れる必要はなかった。


…弟の運転する車で前日の夜買いに行ったファッション雑誌を
熱心に読んだり、ビデオを見たり、
思い浮かんだことを書き留めたり、機内食を突付いているうちに、
飛行機は予定より1時間遅れてデリーの国際空港に到着した。
途中で、実家に大事な携帯電話を忘れて来たことに気が付いた。
気分は丸腰。
ちょっと気が滅入ったけど、
ま、なんとかなるでしょ。